2026/8/17

成果評価はvalue-Add基準で見るべき

「今期は目標を達成しました」と胸を張る人がいる。結構なことだ。では聞きたい。その数字のうち、あなたがいなくても出ていた分はいくらか。そして、その数字を作るために、来年以降にいくら付け回したか。

前任者が十年かけて築いた顧客基盤、円安、たまたま来た特需、競合の自滅。それらを丸ごと自分の成果として計上する人は驚くほど多い。逆に、崩れかけた事業を横ばいで踏みとどまらせた人は「成長ゼロ」として平凡な評価を受ける。だが実際に価値を生んだのは後者だ。前者は波に乗っただけで、後者は波に逆らって立っていた。

見るべきは結果そのものではない。その人がいた場合と、いなかった場合の差分である。これがvalue-add、付加価値だ。

「代替可能な人物と比べてどうか」

この考え方は、スポーツの世界ではとうに常識になっている。野球では打点やホームランではなく、「平均的な控え選手が同じ出場機会を得ていたら、チームの勝利数はどう変わったか」で選手を測る。二十年前から使われている物差しだ。

同じ問いを職場で立ててみればいい。「同じ等級の平均的な人物がこの席に座っていたら、結果はどう違ったか」。この一問を通すだけで、評価の景色は一変する。楽なポジションで平凡な結果を出した人と、難しいポジションで平凡な結果を出した人は、まったく違う評価になるはずである。

社内向けの仕事は、原則として価値を生んでいない

もうひとつ、直視すべき不都合な事実がある。社内会議のための資料、稟議を通すための稟議、根回し、報告のための報告——これらは一円も生まない。それどころか他人の時間を消費している。純粋なマイナスである。

にもかかわらず、この種の仕事は高く評価されやすい。理由は単純で、上司の視界に入るからだ。顧客先で三時間、顧客の困りごとを聞いていた働きは上司から見えない。上司のために三時間かけて資料を整えた働きは、上司から完璧に見える。可視性と価値は、しばしば反比例する。

制度は輸入した。運用者は輸入しなかった

MBO、OKR、ジョブ型。西洋の枠組みは次々と持ち込まれた。だが輸入されたのは制度の骨格だけで、それを動かす人間の教育は輸入されなかった。

部下と対話して目標の難易度を握り、期中の環境変化を織り込んで水準を修正し、期末に根拠を示してはっきりと差をつけ、低い評価をつけた相手に納得のいく説明をして、なお翌日も働ける状態を保つ。これは相当に高度な技能である。その訓練を一度も受けていない管理職に、精密な制度の鍵だけを渡した。無免許の人間にF1マシンを与えたようなものだ。

そして起きるのは「無難な横並び」ではない

ここでよくある誤解を正しておきたい。訓練を受けていない評価者ばかりになると、全員が中央のB評価に集まって差がつかなくなる——そう説明されることが多い。だが現場で本当に起きているのは、それより悪い事態である。

基準を語る言葉を持たない評価者は、恣意で決める。根拠を組み立てる技能がない以上、残るのは「今期の数字」と「印象」だけだ。そしてこの二つは、驚くほど簡単に操作できる。

保守や更新投資を一年先送りすれば、今期の利益は増える。値引きで押し込めば売上は立つ。人員を補充せず現場を回し切れば、コストは下がる。取引先との揉め事に蓋をすれば、今期は静かだ。いずれも問題を消したのではない。将来に移し替えただけである。だが評価の窓は十二か月しかないので、窓の中では彼らは優秀に見える。

しかも彼らは、リスクを取ってなどいない。リスクを取るとは、自分が結果を被る立場に身を置くことだ。彼らがやったのは、自分の任期外にリスクを押し出す作業である。三年後に爆発する頃には、本人はもうその席にいない。これは勇気ではなく、単なる時間の裁定取引だ。

指摘した人間が、なぜ干されるのか

一方、その場に「このやり方は三年後に効きます」と言う人間が現れる。誠実で、正しく、そして極めて都合が悪い。

指摘のコストは、今すぐ発生する。手当てをすれば今期の数字は落ちる。上司は説明責任を負う。会議は長引く。対して先送りの利益は、今すぐ手に入る。評価期間が一年である限り、この勝負は最初から決まっている。

だから指摘者は評価されない。されないどころか、「和を乱す」「批判ばかりで代案がない」「態度に問題がある」と翻訳される。翻訳は評価シートには残らない。残らないところで人事が動く。異動、担当替え、静かな窓際。組織から干されるとは、たいていこのくらい静かな手続きだ。

value-add基準で測れば、符号は完全に逆である。先送りした人のvalue-addは、将来の損失を含めれば大きなマイナス。指摘した人のvalue-addは、防いだ損失の分だけ巨大なプラス。評価制度は、この二人にきれいに逆の符号をつけている。

成果をvalue-addで見るとは、要するに時間軸を延ばして、符号を正しくつけ直すということだ。技術的には難しくない。難しいのは、それを直視する覚悟のほうである。

筆者:

齊藤壮太

1985年生まれ、横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社の18年超のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。不動産デベロッパー業務、アパレルOEM、自動車ディストリビューター・ディーラー、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJに携わる中で所属した5つの組織が解体された。経営管理、予算・事業計画策定、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など幅広い業務に従事。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで柔軟に経営課題に真摯に取り組んできた。

編集後記

「頑張ったことを評価してほしい」という声をよく聞く。頑張りは尊い。ただ、その頑張りが誰かの将来から前借りしたものでないかどうかは、一度確かめたほうがいい。

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