

前稿「成長し続ける会社の異常とは?」で、規模の成長には天井があると書いた。今回はその続きである。
天井にぶつかった会社は、どこを伸ばせばいいのか。
竹と盆栽の話から始めたい。
竹は、まっすぐ上に伸びる。三か月で数メートル伸びるものもある。見ていて気持ちがいい。
盆栽は、上に伸びない。何十年経っても背丈は変わらない。代わりに、幹が太くなる。根が深くなる。枝ぶりに味が出て、樹皮に年輪が刻まれる。どちらも生きている。伸びている場所が違うだけである。
三百年続く和菓子屋は、店舗数を三百倍にしてはいない。同じ場所で、同じものを、少しずつ良くしてきただけだ。それでも三百年潰れていない。竹より長生きしているのは、たいてい盆栽のほうである。
では、質的成長の中身とは何か。抽象的な言葉が並びがちなので、質問の形に直しておく。
一つ目、社会的な存在意義。言い換えれば、「うちが今日なくなったら、誰が困るか」である。名前を挙げて答えられるか。答えられない会社は、規模がいくら大きくても、たぶん誰も困らない。
二つ目、顧客にとっての唯一無二性。つまり、「なぜ隣の店じゃないのか」。価格が理由なら、それは唯一無二ではない。もっと安い店が現れた瞬間に終わる。
三つ目、フィロソフィ。難しく聞こえるが、要は「迷ったときに何を選ぶか」が全員に共有されているかという話だ。社長がいない現場で、若手が判断に詰まったとき、何を基準に決めるのか。そこに答えがあれば哲学があり、なければただの標語である。
この三つには、共通点がある。どれも、数字では測れない。
体重計に乗っても、優しさは測れない。だが、優しくない人と優しい人の違いは、誰の目にも明らかである。会社の質も同じで、決算書には出ないが、客も社員も取引先も、全員がとっくに知っている。
ここで、当然の反論に答えておく。「成長しない会社は死ぬ」「株主にどう説明するのか」。
上場企業には別の力学があるので、そこは分けて考えるべきだ。ただ、多くの会社にとって、この反論は言葉のすり替えを含んでいる。
停滞と成熟は、違う。
停滞とは、何も変わらないことだ。去年と同じものを、去年と同じ値段で、去年と同じやり方で売っている。数字も横ばい、中身も横ばい。これは緩やかな死である。
成熟とは、変わる場所が変わることだ。売上は横ばいでも、粗利の質が変わる。顧客の顔ぶれが変わる。頼まれる仕事の難易度が上がる。若手の腕が上がる。数字の上では同じ一年に見えて、中身はまるで違う。
ちなみに「創業三百年」と看板に書いてある店の多くは、三百年ずっと同じことをしていたわけではない。売り物も、作り方も、届け方も、何度も変えている。変えなかったのは看板だけだ。老舗とは、変えなかった会社ではなく、変えるべきものを間違えなかった会社のことである。
そして、ここからが本題かもしれない。正直に書いておく。
「規模の成長はもう追わない」は、怠けている経営者にとって最高の言い訳になる。
質的成長は、数字より難しい。売上は集計すれば出るが、存在意義は集計できない。だから、逃げようと思えばいくらでも逃げられる。「うちは質で勝負している」と言い続けて、実際には何一つ磨いていない会社を、私は何社も見てきた。質で勝負という言葉は、勝負していない会社ほどよく使う。
だから、質にも自分なりの物差しを置いたほうがいい。数字にできないと言いながら、何一つ見ていないのは、ただの放任である。
たとえば、こういうものだ。指名で来る仕事の割合。断れる仕事の数。値引きを求められる回数。二回目に来てくれた客の数。辞めなかった社員の数。若手が上司に確認せずに決めた件数。
どれも売上には直結しない。だが、これらが動き始めた会社は、三年後にたいてい数字も動く。質は、効きの遅い薬ではなく、効きの遅い食事である。筋トレと同じで、三か月では鏡に出ない。出ないからといって、やっていないのとは違う。
そのうえで、私はこう思っている。
背が伸びなくなった日に、人はやっと中身を作り始める。会社も同じだ。伸びが止まったのは、終わったからではない。成長する場所が、外側から内側に移っただけである。
それでいいのだ。
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筆者:
齊藤壮太
横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。
編集後記
「うちは質で勝負してます」と言われたら、一つだけ聞けばいい。「では、昨年より良くなったところを三つ挙げてください」と。ここで詰まる会社は、質でも勝負していない。
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