

人間の身体は、思春期を過ぎるとだいたい伸びなくなる。
これを病気だと思う人はいない。むしろ逆で、四十歳から毎年三センチずつ背が伸び続けていたら、家族は本人を病院に連れていく。それは成長ではなく、異常だからだ。
ところが、会社になった途端、我々はこれを異常だと思わなくなる。
創業からしばらくは、規模が伸びる。売上が伸び、利益が伸び、人が増える。これは健全だ。子どもが背を伸ばすのと同じで、伸びるべき時期に伸びている。
だが、どこかで必ず頭打ちが来る。市場の大きさ、人口、扱える範囲。六畳間で100人のパーティは開けない。どんな会社にも天井はある。
問題は、その天井に頭をぶつけた後だ。
なぜ、それでも数字を伸ばそうとするのか。理由は経営の合理性ではなく、たぶん人間の心理にある。
売上は、一列に並べられる。業界何位、前年比何%、時価総額いくら。数字は比較が簡単だ。ところが「質」は並べられない。だから、みんな数字を見る。銀行も、株主も、記者も、そして経営者本人も。クラスで一番になりたいという小学生の願いが、そのまま大人になっただけである。
そして、伸びていないと言われるのが怖くなる。
恐怖に駆られた人間が何をするか。外から異物を入れる。大人が背を伸ばそうとすれば、身体が自分では作れないものを注射するしかない。会社も同じだ。
処方箋は、だいたい五種類ある。
一つ目、無理な借入。来年の小遣いを今年のうちに使う手口である。今年の数字はきれいになる。来年から毎月返す。
二つ目、理屈の合わないM&A。他人の服を上から重ね着して、体を大きく見せる方法だ。売上は足し算で増える。ただし、増えるのは売上だけではない。社内会議も、システムも、派閥も二倍になる。
三つ目、誰も欲しがっていない新規事業。押し入れの奥に増えていく健康器具に似ている。買った瞬間だけ、やる気が出る。
四つ目、値上げに耐えられない顧客の切り捨て。「客を選びました」と言えば戦略に聞こえる。実態は、客が減っただけということも多い。
五つ目、人を減らして一人あたりの利益を厚く見せる化粧。体重を落として「筋肉率が上がりました」と報告するようなものだ。実際には、筋肉のほうが先に落ちている。
これらに共通しているのは何か。上に積むために、下から抜いているということだ。
ジェンガである。

一本抜いて、上に載せる。タワーは確かに高くなる。写真を撮れば、去年より立派に見える。だが、下がスカスカになっていることは、写真には写らない。
そして数字が伸びている間、誰も何も言わない。監査法人も、銀行も、社員も、黙っている。健康診断を受けなければ病気にならない、という理論で全員が生きている。
止まった瞬間に、全部が一度に出てくる。
薬で膨らませた身体が長持ちしないのは、人も会社も変わらない。歴史を振り返れば、急に大きくなった会社が急に消えた例など、掃いて捨てるほどある。あれは失速したのではない。効き目が切れただけである。
ここで、当然の反論が来る。「では、伸びなくていいのか」「成長しない会社は死ぬではないか」。
もっともだ。この点は次稿「成長② - 天井にぶつかった会社は、何を伸ばせばいいのか?定量評価が難しいもの」でまとめて書く。先に結論だけ置いておくと、伸びなくていいという話ではない。伸びる場所を変えろという話である。
人間だって、背が止まった後に成長をやめるわけではない。判断力がつく。人の痛みが分かるようになる。若い頃なら怒鳴っていた場面で、黙って一拍置けるようになる。伸びる場所が、外側から内側に移っただけだ。
会社も、そうなればいい。
最後に、経営者として自分に刺さる一行を書いておく。
薬を打つ理由は、たいてい事業の必要ではない。「伸びていない」と言われたくない、という個人的な恐怖である。そして恐怖で打つ薬は、必ず量が増えていく。
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筆者:
齊藤壮太
横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。
編集後記
「今期も増収増益です」としか語ることのない会社は、まだ思春期である。悪くはない。ただ、大人ではない。
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