

「やるべきことを整理してきました」と言って、二十項目のリストを持ってくる者がいる。
正直に言おう。あれは、仕事をした証拠ではない。考えることを放棄した証拠である。
やることを挙げるだけなら、入社二年目でもできる。市場を調べれば課題は出てくる。現場を回れば不満は集まる。競合を見れば「うちにも足りないもの」は無限に見つかる。列挙とは、要するに世界を写生する作業だ。そこに判断は一つも入っていない。
経営とは、その二十項目のうち十七を消す行為である。

「AにしようかBにしようか迷っています」という報告も同じだ。この一言を平然と口にできる人間は、経営者には向いていない。理由は倫理ではなく、算数にある。
迷っている間、リソースは動いていない。人は待機し、資金は寝ており、市場は勝手に前へ進む。迷いは無料ではない。時間という、唯一取り返しのつかない資源で支払われている。 一週間迷ってAを選ぶことと、初日にAを選ぶことは、まったく別の経営判断だ。前者は後者より一週間分、確実に貧しい。
そもそも、AとBで迷うということは、その二つの期待値が近いということである。期待値が近い選択肢は、どちらを選んでも大差がない。大差がないものに時間を使い、大差がつくものを放置する。これがコスト意識の欠如の正体だ。
判断が本当に難しいのは、AとBのどちらかではない。AもBも捨てて、誰も口にしていないCに全部賭けるかどうかである。ここでだけは、経営者は迷っていい。
では、何を捨てるか。私は三つの問いで切っている。
第一に、それをやめたら、明日、誰が困るか。 「なんとなく続いている」業務の多くは、この問いに具体的な名前で答えられない。答えられないものは、たいてい惰性である。
第二に、それは、うちがやらなければ世の中に存在しないか。 他社が同じ品質で、より安く提供しているなら、我々がやる理由は感情でしかない。感情に人件費を払う余裕のある会社を、私は見たことがない。
第三に、それに投じる一時間は、どこから奪ってきた一時間か。 新規事業の一時間は、既存顧客への一時間を削って捻出されている。足し算で考える経営者は、必ずここで嘘をつく。実際の経営は、常に引き算だ。
そして、始める前に撤退基準を決めておく。「三か月で受注ゼロなら畳む」と紙に書いてから始める。決めていない撤退は、必ず遅れる。人は、自分が始めたものを殺すのが下手にできている。だから、まだ愛着のないうちに、殺す条件だけ先に決めておくのだ。
なお、この三つの問いが効くのは事業や施策だけではない。溜め込んだデータも、儀礼だけの定例会議も、誰も読まない報告書も、まったく同じ刃で切れる。経営における断捨離は、対象が違うだけで、作法は一つである。 サーバーの中身を捨てられない経営者は、事業も捨てられない。逆もまた真だ。
やることリストは、社員に作らせればいい。 やらないことリストは、経営者にしか作れない。それは、誰かの提案を断り、誰かの努力を無駄にし、その恨みを引き受ける仕事だからである。
その不人気な作業を引き受ける対価として、我々は報酬を得ている。
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筆者:
齊藤壮太
横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。
編集後記
「全部やる」と言う経営者は、優しいのではない。決められないことを、優しさと言い換えているだけである。
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