2026/8/30

AIの裏側① - サーバー投資が生む世界の恐慌

いま世界中で、途方もない額のカネがサーバーに注ぎ込まれている。データセンター、電力、冷却、そしてGPU。金額の桁は年ごとに一つずつ増え、一国の国家予算と比較する記事も珍しくなくなった。

ここで一つ、素朴な質問をしたい。

この投資は、「これ以上の技術革新は起きない」という前提で組まれていないか。

償却は5年、6年で回す。ところが、その計算資源を食う側のアルゴリズムは半年単位で書き換わっている。蒸留する、量子化する、疎にする、必要な部分だけを動かす。要するに研究の主戦場は「同じ答えを十分の一の計算で出す」方向に移っている。それが一段でも成功すれば、いま建てている巨大な倉庫は埋まらない。

私にはこれが、航空機の時代に戦艦大和を百隻つくっている絵に見える。

誤解のないように言えば、大和が愚かだったのではない。あれは当時の造船技術の到達点であり、鋼板も主砲も世界最高水準だった。愚かだったのは、「艦隊決戦は今後も起こる」という前提を誰も疑わなかったことである。技術ではなく、前提が古かった。だから最高の技術で作った最高の艦が、ほとんど戦わずに沈んだ。

前提を疑わない投資は、規模が大きいほど傷が深い。これは経営の一般法則である。

ここで、一本の棒の話をしたい。

この世のすべての情報を、短い棒一本に記録することができる。すべてを0と1の羅列に直し、それを一つの小数――0.11001…――とみなす。棒の全長をその比率で割った位置に、刻みを一本入れる。理屈のうえでは、それだけで図書館が丸ごと棒の中に入っている。刻みの位置を無限の精度で読み出せるなら、という条件付きではあるが。

この比喩の面白さは、記録量を決めているのが「入れ物の大きさ」ではなく「刻み方」だという点にある。棒を長くする競争と、刻み方を精密にする競争は、まったく別のゲームだ。そして人類の歴史では、たいてい後者が勝ってきた。真空管はトランジスタに負け、フィルムはセンサーに負け、専用機は汎用機に負けた。

いま世界が張っているのは、棒を長くするほうの賭けである。

恐慌に至る道筋は、驚くほど平凡だ。設備投資は自己資金では足りないから借り入れる。借入の返済計画は稼働率を前提にしている。稼働率が計画を下回れば減損。減損は自己資本を削り、貸し手は他の案件まで引き締める。投資が止まり、需要が消え、稼働率がさらに落ちる。1840年代の英国鉄道熱も、2000年前後の光ファイバー敷設も、この順番で終わった。掘った溝は残ったが、掘った会社は残らなかった。

もっとも、これは「投資するな」という話ではない。溝を掘った会社が消えても、その溝を安値で使った次の世代は繁栄した。問題は、自分がどちらの側に立っているのかを自覚しているかどうかだ。

そして、これは中小企業の経営者にとっても他人事ではない。設備を入れる、システムを入れる、人を採る。そのたびに我々は同じ問いに晒されている。

この投資は、何が変わらないことを前提にしているのか。 そして、その前提が外れたとき、いくら失うのか。

答えられないなら、それは投資ではなく、賭けである。

そしてもう一つ、投資判断の前に片付けておくべき問いがある。その倉庫に、そもそも何を入れるつもりなのか。棚卸しをせずに増築を決めた経営者は、いつの時代も同じ末路を辿る。

シェアする→

でシェアする

筆者:

齊藤壮太

横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。

編集後記

大和は沈む三日前まで、世界最強の戦艦だった。強いことと、正しいことは別の話である。

2026/9/17

自社株買① - 自社株買いとは?ケーキは、大きくなっていない。

上場企業が2025年度に設定した自社株買いの枠は、合計で22兆3千億円あまりだった。前年度から18%増え、5年連続で過去最大を更新している。その前年度も18兆円台で、さらにその前の年から85%増えていた。数字が大きすぎて実感が湧かないので、割ってみる。一日あたり、およそ6百億円。日本の上場企業が、毎...

2026/9/16

成長② - 天井にぶつかった会社は、何を伸ばせばいいのか?定量評価が難しいもの

前稿「成長し続ける会社の異常とは?」で、規模の成長には天井があると書いた。今回はその続きである。天井にぶつかった会社は、どこを伸ばせばいいのか。竹と盆栽の話から始めたい。竹は、まっすぐ上に伸びる。三か月で数メートル伸びるものもある。見ていて気持ちがいい。盆栽は、上に伸びない。何十年経っても背丈は変わ...

2026/9/15

成長① - 成長し続ける会社の異常とは?

人間の身体は、思春期を過ぎるとだいたい伸びなくなる。これを病気だと思う人はいない。むしろ逆で、四十歳から毎年三センチずつ背が伸び続けていたら、家族は本人を病院に連れていく。それは成長ではなく、異常だからだ。ところが、会社になった途端、我々はこれを異常だと思わなくなる。創業からしばらくは、規模が伸びる...

(C) 2026 JSK. All Rights Reserved.