2026/10/1

簿外資本⑤ - 身体は、毎日錆びている。

前稿の最後に、色の濃い野菜を選べと書いた。理由を説明する。

人間は、酸素で燃料を燃やして生きている。息を吸い、糖と脂肪を燃やし、そのエネルギーで動いている。

燃やせば、必ず錆びる。

これが酸化である。鉄が赤く錆びるのと、原理としては同じことが、身体の中で毎日起きている。老化も、疲れの抜けにくさも、血管や細胞の傷みも、その背景にはこれがある。

生きているかぎり止められない。呼吸をやめるわけにはいかないからだ。

身体には、消火設備がある

もっとも、身体も無防備ではない。錆を打ち消すための消火設備が、あらかじめ備え付けられている。酸化を打ち消す酵素がいくつも用意されていて、日常的な錆はここで処理されている。

問題は、設備の能力に上限があることだ。

加齢、睡眠不足、過度なストレス、飲みすぎ、紫外線。これらが重なると、発生する火の量に対して、消火設備が追いつかなくなる。工場の稼働率だけ上げて、消防設備を更新しない状態である。

そこで、外から消火剤を持ってくることになる。

ファイトケミカルは、動けない生き物の防具

ここで登場するのが、ファイトケミカルだ。

植物が作る、色や香りや苦みの成分の総称である。トマトの赤。にんじんの橙。ブロッコリーの苦み。生姜の辛み。玉ねぎの匂い。紫キャベツや茄子の紫。

面白いのは、彼らがなぜこんなものを作ったのかである。

植物は、動けない。

紫外線が強くても日陰に逃げられない。虫に食われても走れない。乾いても水場まで歩けない。だから、その場に立ったまま身を守る方法を発明するしかなかった。それが、自前で化学物質を合成することだった。

要するに、動けない生き物が数億年かけて開発した防具である。

そして我々は、動けるにもかかわらず、その防具を横取りして使っている。人間は自分では作れないので、借りるしかない。

野菜は、色で選ぶ

だから、野菜は色で選ぶといい。

色が濃いものほど、防具が厚い。淡い緑は、大部分が水である。前稿で書いたとおり、かさと中身は違う。

ここで、話が前稿とつながる。

その防具も、やはり細胞壁の中にある。

つまり、生でかじっても、大半は金庫に入ったまま通過していく。熱を加えて壁を壊し、汁に溶け出させ、その汁ごと飲む。鍋であり、味噌汁であり、スープである。

トマトの赤い色素が、加熱して油と合わせると吸収されやすくなるのも同じ話だ。生のトマトをかじるより、煮込んだトマトのほうが効率がいい。イタリア人が何百年も前から、トマトを油で煮ているのは伊達ではない。

食物繊維は、下宿人の餌代である

もう一つ、外から入れるべきものがある。

食物繊維である。

こちらは、自分のために摂るというより、下宿人のために摂ると考えたほうが正確だ。

大腸は、排泄のための管だと思われがちだが、実際にはそこに膨大な数の細菌が住んでいる。そして彼らの主食が食物繊維である。

餌がないと、どうなるか。

彼らは、腸の内側を覆っている粘液の層を食べ始める。家に食料がなくなった居候が、壁紙をはがして食べ始めるようなものだ。壁が薄くなれば、腸は荒れる。

つまり食物繊維は、家賃ではなく、家を守るための餌代である。払わなければ、家のほうが齧られる。

便が長く腸に留まることにも、別の問題がある。肝臓がいったん処理して捨てたはずのものが、腸から再び吸収されて戻ってくる経路が存在するのだ。ホルモンの一部もこの経路で戻ることが知られている。出すべきものを出せていないと、身体は同じものを二度処理する羽目になる。

在庫が捌けない倉庫を想像すればいい。滞留したものは、必ず後工程に負担をかける。

さらに、全身のセロトニンの大半は腸管にあると言われている。腸の状態と気分の関連が研究されているのは、このためだ。腸のセロトニンがそのまま脳に届くわけではないので、腸を整えれば幸せになると言い切るのは行き過ぎだが、腸が荒れていて機嫌のいい人を、私は見たことがない。

一杯でやる方法は、日本にとっくにある

ここまでをまとめると、こうなる。

錆びるのは止められない。だから、消火剤を外から入れる。消火剤は色の濃い野菜に入っていて、細胞壁の中に閉じ込められているので、煮出して汁ごと飲む。同時に、腸に住んでいる下宿人の餌も入れる。

これを一皿でやろうとすると難しい。だが、一杯でやる方法は、日本にはとっくにある。

具沢山の味噌汁である。

野菜を煮て、汁ごと飲み、発酵食品まで同時に入る。設計としてかなり優秀だ。誰が考えたのか知らないが、少なくとも栄養学より先に完成している。

なぜ日本の食卓がそうなったのか。その話は次稿に書く。

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筆者:

齊藤壮太

横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。

編集後記

高級な抗酸化サプリを飲みながら、夜中まで酒を飲んで寝不足を続ける人がいる。消火器を買って、火をつけて回っているようなものである。

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