

新規事業は難しい、とよく言われる。
理由は会社によって違う。本業が斜陽になったから。別の収益の柱が要るから。滞留しているシニアを動かしたいから。若手のモチベーションを上げたいから。動機はまちまちだが、いまやどんな組織でも新規事業創出の取り組みが行われている。
そして、そのほとんどが掛け声だけで終わる。新しい収益の柱にまで育った例は、数えるほどしかない。
まず、いま並べた動機のところで、すでに一つ目の事故が起きている。
目的が混ざっているのだ。
「新しい収益の柱を作る」と「シニアを活性化する」と「若手のやる気を上げる」は、まったく別の目的である。運動会の種目に「速い子が勝つ」と「全員が楽しむ」を同時に求めるようなものだ。どちらも良いことだが、一つの競技で両方は満たせない。無理にやれば、速くもなく楽しくもない何かが出来上がる。
多くの社内新規事業は、この「何か」である。
さて、失敗が続くと、当然ながら処方箋が出てくる。
発想が大事だ。いや、環境の分析と洞察が要る。顧客のニーズへの訴求だ。自分の勝ち筋へのこだわりだ。そういう能力を身につけさせる仕掛けが必要だ。
どれも、上手くいかない。
なぜか。どれも必要条件ではあるが、十分条件ではないからである。
鉛筆と消しゴムとノートを机に置いたら、宿題は終わるだろうか。終わらない。道具は必要条件で、やる人間が十分条件である。誰もが子どもの頃に身をもって知っているはずのことを、大人になると忘れる。
もう少し美味しい例で書く。カレーである。

ルーがある。肉がある。玉ねぎもじゃがいももにんじんもある。レシピも机の上に広げてある。材料は完璧に揃っている。
だが、火をつける人がいなければ、いつまでもただの食材である。
発想も、分析も、洞察も、ニーズの把握も、机に並んだ材料だ。それだけで規模のある収益が生まれるなら、誰も苦労していない。
では、なぜ会社は材料の話ばかりするのか。
理由はたぶん、身も蓋もないところにある。材料は安いからだ。
アイデアは会議室で出せる。分析はコンサルタントに頼める。研修は年度予算で組める。どれも今日から始められて、来週には資料になる。
人を替えるのは、高い。評価をひっくり返し、人事の面子を潰し、誰かの席を動かすことになる。だから会社は、安いほうを何度もやる。そして毎年、去年とほとんど同じ企画書が出てくる。
新規事業の成功率について、10個やって1個当たればいい、といった言い方をよく聞く。数字の根拠はさておき、私が現実に見てきた光景はもっと単純だ。多くの会社は、3個目あたりで疲れて止める。そして「うちには向いていなかった」と結論づける。10回サイコロを振ると決めた人が、3回目で台を片付けているだけである。
では、火とは何なのか。
人間力である。
抽象的に聞こえるだろうが、これは精神論ではない。極めて具体的な、特定の資質を持った人間たちの組み合わせのことだ。そして、その顔ぶれは、たぶんあなたが思っているのとかなり違う。
その話は次稿「新規事業ができる人の条件とは?」に書く。
最後に、ひとつだけ。
新規事業が失敗したときの検死報告書には、たいてい「市場環境が想定と異なった」と書かれる。読むたびに思う。
本当は、その仕事を渡した相手が違っただけではないのか。
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筆者:
齊藤壮太
横浜・世田谷育ち。学生時代は體育會剣道部、體育會本部に所属。大学卒業後、大手総合商社のサラリーマン経験を経て、2024年に起業。20年近い商社勤務の中で、不動産デベロッパー事業、アパレルOEM事業、自動車ディストリビューター・ディーラー事業、製紙事業、経営企画、ERP刷新PJ統括、デジタル推進組織に携わり、うち所属した5つの組織が解体された。従事した業務は、経営管理、予算・事業計画策定、M&A・PMI推進、原料調達、規程・制度導入、システム要件定義・PJ管理・推進、ロジスティクス管理業務など多岐にわたる。起業後は、日本食文化を世界に残すための取り組み、寺子屋講師、経営者のサポートなど幅広い実践経験を通じ、ハンズオンで経営課題に真摯に取り組んできた。
編集後記
新規事業のメンバーを社内公募したら、いま手が空いている人しか来なかった。よくある話である。本当に欲しい人は、たいてい忙しい。
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